思ひで(プレバージョン)

 

囲われ女 

 就職活動も一息ついたある夏の日のことだった。バイトを終え、日課となっていた在宅テレクラに電話をする。優良顧客だった私は、優先的にコールを回してもらえるのであった。今考えたら何とも牧歌的な風景ではある。取り次ぎに人間が介在してたなんて。

 繋がった女はいきなり悲愴感を漂わせた口調で切り出した。

「ここから出して」

今でこそ天使の様な私だが、当時は悪鬼の如し、であった。

「飼われてんの?」

この一言がまさか的を射てるとは・・・・。女はポツリポツリと身の上を語り出した。

「父が借金を残して死んで、母は入院中。弟は大学に・・・。全部肩代わりしてくれる叔父のマンションで暮らしている。外には出してもらえない。出たのが解ったら風俗に行って借金を返せるまで働かされる」

うぅ・・・。既に成り上がり(C)Akichi YAZAWA、貴族然とした生活を送っているとは言え、私も貧民の出。同情してしまう。

「そうか、じゃあ一緒に逃げよう。荷物一式持って、明日の昼に、大丸の前で待ち合わせだ!」

「でもお母さんや妹が・・・・」

「4,000万(これ借金ね)だろ?大丈夫大丈夫。代りに払ってやるよ。心配すんな!」

なんてイイ人なんだろうなあ。

「目印教えて。」

「身長が170cm前後、会社抜け出して行くからスーツ姿だよ。」

「わかった。」

 翌日。もし美人で怪しくなければ嘘を謝っていただいてしまおうと思い、大丸へ。いました。絵に描いたような薄幸の女性。長い髪、白い肌、目印の赤いバッグ。

 一旦大丸前を通りすぎて、それとなく周りを伺うと、いますねえ。やたらキョロキョロしてる怖そうなお兄さんが2、3人。

 当初の計画通り、そのまま四条通りを横断して、向かい側から観察。待ち合わせ時間を半時間以上経過した後、その女性は怖いお兄さんに叱責され(てるように見えた)、引きずられるように消えていきました。

 美人局だったのか、本当に囲われててバレたのか・・・。今となっては知る術もありませんが彼女の幸せを祈らずにはいられません。


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