第三話 カレー屋の娘(2)
S寮。それは京都の北部にある大通を一本入ったところにある古い木造の女子寮。
車が入れないほど細い路地の奥にある、不思議な建物でした。ただ戸締まりだけはは厳重で、女性以外の侵入を困難にしています。
彼女との関係が始まり、一カ月がたったある日のこと。
彼女が部屋に招待してくれました。その日は寮の女の子の殆どが実家に戻っており、部屋に入れても大丈夫ということでした。彼女にまだキスもしていなかったM谷は、期待に股間を膨らませきって部屋へと向かいました。
その日、彼女がM谷に作ってくれた初めての料理は、「アンチョビのサンドイッチ」。
あんまり料理は上手くない、と言ってた彼女の言葉に嘘偽りはありませんでした。襲い来る嘔吐感と戦いながらもなんとか半分を食べ切ったM谷は、全身からイワシの匂いを発しつつ彼女を押し倒したのでした。
儀礼上(でしょう、多分)抵抗する彼女の上に乗ったとき、扉が開いたのでした。
彼女を押さえつけながら振り返ると、戸口に白人の大女が! 咄嗟のことで、彼女の腕を離さず、半分ずらしたズボンも上げることの出来ないM谷に向かって、白人女が大声で叫び始めました。
白人女の顔はドンドン赤くなります。大声で非難しているのに、曖昧なリアクション((C)Mr.Children)をとり続ける日本人が許せないのでしょう、部屋に上がり込んできました。
この時初めて身の危険を感じ、性欲よりも自身の安全を優先させました。同時に、我に返った彼女はM谷の腕の中から逃れ、部屋の角で防御姿勢を取っています。
「誰や、あれ」
「隣に住んでる***さん」(忘れました)
「何人なんや」
「ドイツ人」
「何を怒ってるんや」
「私に聞いても解んないよ!自分で聞けばいいでしょ!」
「自分の部屋に勝手に上がり込まれて、なんで平気やねん。出ていけとかなんか言えよ!」
「あんたが出て行ったら!」
ああ、なんでこんなことになるんでしょうか。
彼女への愛を貫くために、自分の分身で貫いてやろうと思っただけなのに。
初対面の白人大女にさんざん罵倒され、味方のはずの彼女には「お前が帰れ」と言われ・・・。
あまりの惨めさに半泣きになりながらズボンを上げ、罵倒を続ける大女の脇を抜けて一人S寮を出ました。
まだ下り切っていない闇の帳の中、帰路につくM谷の背中にはいつまでも異国の言葉が投げつけられたのでした。
彼女ですか?
もちろんそれっきりです。