第十話 101回目のプロポーズ
卒業を半年後に控えた四回の秋、論文の締め切りを数本抱えていたM谷は地獄の二日間完徹を強行。その甲斐あって、遂に完成!精も根も尽き果てたM谷は、やっと眠れるとWの下宿へと急ぎました。秋の午後二時、書き上げた開放感よりも論文執筆中の集中力がまだ勝っていて、全く眠くありません。しかも今日は十月十六日。そう、M谷のママ’ズバースディ。M谷はWの下宿でコーヒーを一杯飲むと、そのまま愛車カローラ(白)に乗って家路につきました。急がなければ四時半から始まる101回目のプロポーズの再放送に間に合わない!
しかし・・・。秋の昼下がり。カローラ(白)の温度は心地よく、睡魔のアタックがM谷を襲います。窓を全開にし、101回目のプロポーズの主題歌を熱唱するM谷。しかし信号待ちの時、通行人から指を差されて笑われて熱唱をストップ。今思えば世間の目なんかに負けず、続けてさえいれば・・・。
襲い来る睡魔。その度に窓を開けて風にあたって目を覚ますことを繰り返すM谷。しかしその効力も次第に薄れてきました。そして運命の瞬間(とき)は着々と近づいていたのであります。大音量のFM802も、既に遠くに聞こえる鐘のよう。そして一瞬、さしもの「大門」M谷も睡魔に負けました。時間にしてほんの数秒。そして開いた目に映ったものは・・・。
大きな黒いタイヤ、そして真っ白な壁。次にすさまじい衝撃がM谷を襲います。数分の一秒、気を失ったかも知れません。正気に戻ったM谷が見たのは、砂利を満載したダンプ、そしてそのバンパーの下にめり込んだ愛車でした。白い壁はボンネットがくの字に曲がって、前方の視界を遮っていたのでした。誰が見ても一発廃車コース。M谷はよろめきながら車外に出ました。何気なく口を拭うと、手の甲が真っ赤っか。口の中を切っているようです。シートベルトをしていたにもかかわらず、ハンドルに唇が当たったようです。
周りを見回すと既に野次馬だらけ。しかも交番のすぐそば。駆けつけた警察官に事情を説明するM谷。
「君、この車運転してた人しらんか?」
「あ、ぼ、僕です。すみません、あの・・・」
「何をいうとるんや。車こんななってるのに、乗ってる人間が無事なわけあるかいな」
「ホントに僕なんです。ほら・・」
口を開けて流血をアピール。
「なんで歩いてんねん・・・・」
M谷の愛車は短い一生を終えました。近所の工場から出てきた作業車がめりこんだ愛車を引き剥がしてくれました。その後はレッカーにひかれ、もの言わぬ愛車と無言の帰宅。
えぇ、一生を左右するかもしれないアクシデントにあいましたが、ちゃんと四時半からの101回目のプロポーズには間に合いました。